vol.10 (2006年12月発行)
CONTENTS
進む教育改革「学ぶ意欲を引き出す教育を目指して」
   東京都杉並区立三谷小学校 伊東冨士雄先生
 学力向上に取り組む学校
  「『思考力』をはぐくむ学びの創造」  香川大学教育学部附属坂出小学校
 学力向上に取り組む学校 
  「IT機器を活用した基礎学力の育成」  宮崎県三股町立勝岡小学校
 教育フォーラム2006 「今こそ“人間の命”を考えよう」
 金ROM2006を指導要録の記入にお役立てください
       金ROM2006を学校全体でご活用ください
 局面指導 いつでもどこでも道徳指導
 第4回金ROMコンクールの入賞者を発表いたします
     
第10回「漢字歌」コンクール入賞者決定!
 日本教育再興連盟(NPO法人申請中)の動き
        ●教育夏まつり2006
        ●第1回学校教育再興フォーラム群馬大会
内容の一部紹介
 進む教育改革

  「学ぶ意欲を引き出す教育を目指して」


    東京都杉並区立三谷小学校 伊東冨士雄先生

 文部科学省は、平成18年1月17日に「教育改革のための行動重点計画」をまとめました。同時に、具体的な取り組みとそのスケジュールも発表しています。その中で、「確かな学力向上」の方策の一つとして「学習指導要領の見直し」を掲げ、平成18年度から19年度にかけて、「学校教育法の見直しの状況等も踏まえつつ、学習指導要領を改訂」と、日程を明らかにしました。その後、新内閣が発足し、閣議決定により「教育再生会議」が設置されたこともあり、今後の「教育改革」の取り組みの方向と日程は、流動的になっています。今回は、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会小学校部会委員・伊東冨士雄先生(東京都杉並区立三谷小学校校長)に、学習指導要領の見直しの内容や、学校・教師の立場から見た、求められる教育改革の中身について、お話を伺いました。(聞き手「新しい教育(金ROM広場)編集部」)
※インタビューは、「教育再生会議」発足前の9月下旬に行われました。

●最初に、新しい学習指導要領が発表される時期についての見通しはいかがでしょうか。
伊東 18年度のうちに新学習指導要領がまとめられるのではないかと思います。と、言いますのも、文部科学省が8月31日に提出している「平成19年度概算要求」の中に、「新学習指導要領の周知」のための予算を入れています。具体的には「新学習指導要領の理解を図るため、各学校段階における各教科等の学習指導要領解説書等の作成、新教育課程説明会の開催、オンライン学習指導要領の作成等を行う」とあります。また、この間、中央教育審議会の初等中等教育分科会の中に、さまざまな分科会が作られ、議論が進められています。私の参加する二つの分科会でも、毎回たくさんの資料が配布されて、準備が進んでいることを実感しています。一方、「教育基本法の改正」が、秋の臨時国会で審議されることになっていますが、そのことは、新しい学習指導要領の改訂内容にも、影響があると思います。私自身は社会科を専門にしていますが、社会科は特に、「教育基本法」の中身と関連することが少なくないと思います。
 議論の進捗で言うと、国語、あるいは小学校英語について議論が進んでいるように思います。国語は、単に教科としての国語だけでなく、すべての教科に関わる「読解力」について、議論されています。

●学習指導要領の内容が、大きく変化するということでしょうか。
伊東 前回、学習指導要領が改訂されたときのテーマは、「厳選」でした。「厳選」がテーマでしたから、私が関わっている社会科では、新教材があまり入ってきませんでした。学校というのは、教材を新しく開発するときに元気になるものです。ですから、絶えず新たな課題があった方が、結果的に学校には良いことだと思います。
 今回は、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の結果を踏まえて、読解力をどのようにつけていくかが大きな課題になっています。やはり、教科としては国語の内容をどのように変えていくかが、議論のポイントになると思います。

●「義務教育の到達目標を明確にする」ということが課題として挙げられています。
伊東 例えば、「読解力をつける」と言っても非常に抽象的です。そこで、「義務教育終了までに、自分の考えをA4一枚(千字程度)で表現する」、あるいは、「都道府県の名称と位置について、正しい認識を持つ」というように、具体的な内容を示していこうということです。ただし、「A4一枚(千字程度)で表現する」といっても、小学校1年生に対する目標なのか、小学校6年生に対する目標なのかで、意味はまったく違います。学年段階が明示されない目標では、学校現場は混乱してしまいます。私はその点が重要だと考えていますので、到達目標の策定にあたっては、内容と学年の関係の明確化の重要性を、審議の中では主張させてもらいました。
 これまで作文の目標といえば、大事な内容を落とさずに書こうとか、順序に気をつけて書こうというものでした。それが、到達目標として、「A4一枚(千字程度)で表現する」というものになれば、学校は、子どもたち一人ひとりがその力をつけられるように取り組まなくてはいけないわけですから、当然、人的な配置など、手当てが必要になります。私は、体制の整備なしに新しいことが導入されて、学校が混乱してしまうことを心配しています。
 新学習指導要領全体として示していくことになる「内容」については、文部科学省がまとめています。(図「『生きる力』の育成を目指す教育内容・目標の構造」参照 ★PDF形式のファイルで見ることができます。
 その中では、「確かな学力」を「知識・技能等」と「思考力・判断力・表現力等」の二つに分けています。それぞれ、具体的な内容が例示されています。また、「生きる力」についても、その中身を具体化しようということで、12に分類しています。その上で、「思考力・判断力・表現力等」との関連を示したり、「豊かな心」との関連も示そうとしています。
 この構造表は、到達目標をかなり意識したものになっていると思います。これまでの日本のカリキュラムは、すべて履修型でできています。習得型ではありません。習得型は、自動車教習所を思い浮かべてもらえれば分かりやすいと思います。教師は何を教えるか、子どもは何を学ぶかが分かっている。そして、必ず評価が伴います。ただ、学校はさまざまなことをする場所ですから、この考え方がすべてうまくあてはまるかというと、そうでない部分もあります。なじむ部分となじまない部分があるから、すべて同じ考えでやってしまったら危険です。このような心配が、議論の中でもよく出されています。
 現在、学校現場で起きている問題に、学校間の連携に関わって、小中の接続の問題と小1プロブレムがあります。小学校の立場で言えば、学校の入り口と出口の部分にかなり課題がある、ということです。この問題を解決していくことが重要です。現在の教育課程部会での議論は、学校横断的に幼・小・中・高が集まって一緒に議論をしたり、教科横断的に集まったり、算数の委員が社会の議論に参加したりと、さまざまな方法が取られています。すでに品川区などで始まっている小中一貫の取り組みなどを見つつ、10年先を構想した学習指導要領の完成を望んでいます。

(以下略)
 学力向上に取り組む学校

  
「『思考力』をはぐくむ学びの創造」  香川大学教育学部附属坂出小学校

 坂出市は四国の北東にある香川県のほぼ中央に位置します。北には、瀬戸内海が広がり、自然豊かな土地柄です。そんな坂出市の中心部に位置する香川大学教育学部附属坂出小学校は、平成15年度より「思考力」に焦点を当て研究を進めてきました。その間、平成16年12月に、OECDの行った学習到達度調査(PISA)結果が公表され、「読解力」の得点については、「OECD平均程度まで低下している状況にある」など、日本の子どもたちの学力についての課題が示されました。こうした状況も受け、18年度は「『思考力』をはぐくむ学びの創造 −脳科学研究との連携、授業力を高める校内研修−」という主題を掲げ研究を進めています。そして、平成18年10月15日には「平成18年度 倉澤栄吉先生と国語教育を考える会」を開催し、その中で、小学校1年生を対象とした「PISA型読解力を育成する授業」を公開しました。

■「思考力」の育成に向けて−学力の捉えの確立
 坂出小学校では、「思考力をはじめとする学力低下問題」がクローズアップされる状況の中、「思考力の育成」を最重要課題として位置づけ、研究を継続しています。
 その中で「確かな学力」を、「基礎・基本」と「豊かな学力」の二つに分けて以下のように捉えています。

「基礎・基本」…学習指導要領に示された内容の学習によって身に付く学力
「豊かな学力」…学習指導要領に示された内容を超えた広がりと高まりのある学力
○前者は、より高次な「学力」を育成するという意味で発展しており、後者は「学力」が広がり、深まるという意味で発展していると解釈する。
○これと同時に、「発展的な学習」で身に付けられる学力は、「基礎・基本」をさらに確かなものにする学力と、「豊かな学力」の両方であると定義する。

 こうした捉え方に基づき、学習指導要領の文言を「思考の質」に着目しながら、各教科ごとに「思考力」の内容を具体化する作業を進めました。

【国語】
○ことばとそれが指し示す意味、ことばとことばの関係、ことばとその使用者等について、既成の秩序の中で論理的に吟味する力
○ことばとそれが指し示す意味、ことばとことばの関係、ことばとその使用者等について、五感を通して得てきた知識や経験と結んで創造する力
○ことばの使用の正誤、適否、美醜、好悪等について、感覚的に捉える力
【社会】
社会的事象について、自己の既有経験や調べから得た事実を基に、事象に含まれる事実を比較・分類したり、空間的・時間的な広がりの中で事象相互を関係付けたりして、その特色や意味を捉える力
【算数】
○事象のしくみやその表現・処理の方法を構造的・形式的に捉える力
○経験に照らしながら問題とその便利な解き方を見出そうとする力
※以下、略

 各教科ごとに「思考力」の中身を具体化することにより、学習の目標(評価規準)が、それぞれの発達段階として適切かどうかの吟味がしやすくなりました。

■トレーニングシートの開発

 坂出小学校では、思考力を高めていくための教材として、独自の「トレーニングシート」を開発しました。「トレーニングシート」は、「ことば・トレーニング(国語)」と「算数ワールド(算数)」の二つ、それぞれ第5学年用と第6学年用に分かれて構成されています。
●「ことば・トレーニング」
 「ことば・トレーニング」は、以下の4項目から設問されていて、国語科で培う論理的思考力や想像力、言語感覚の育成に対応しています。

A…主に、ことばとそれが指し示す意味における整合性を吟味する問題
B…主に、ことばとことばとの関係における整合性を吟味する問題
C…主に、ことばとそれを使用する者との関係における整合性を吟味する問題
D…主に、ことばで発想・想像を広げたり、言語感覚を高めたりする問題

 「思考力」の繰り返し練習という意味から、すでに習った「思考様式」をもとに、第5学年と第6学年の設問内容は同じにしてあります。第5学年で実施した問題と同様のものを、1年後に繰り返し実施するという仕組みです。ただ、第6学年の設問は、取り扱うことばの抽象度を高めたり、文脈を広くとったりして、難易度を高くしてあります。解答例のシートも用意され、各設問においてどのような「思考様式」を活用するとよいか、また、それは何学年で扱った内容なのかが明記され、児童が「思考様式」を自覚できるような助言ができるよう配慮されています。

●「算数ワールド」
「算数ワールド」は、以下の7項目から設問されています。算数の学習では扱わない学習内容も含んでいて、帰納・演繹・類推といった問題解決の道筋を支える考え方や図に表したり表で考えたりする問題解決の過程で用いる考え方を必要とし、論理的思考力を培うことのできる内容となっています。

A…主に、数と計算領域の内容、有効な思考手続きを必要とする問題
B…主に、図形の性質を使った問題や複合図形の求積問題
C…主に、筋道を立てて、真実を探す論理的思考問題、表で考えるよさの問題
D…主に、伝統的問題(油分け、裁ち合わせ)
E…主に、思考ゲーム的な問題
F…主に、根拠をもって論証する問題、思いこみからの脱却問題
G…主に、折り紙を使った操作活動を伴った思考問題

 「ことば・トレーニング」と同様、繰り返し練習ができるように、同類の問題を繰り返したり、第5学年と第6学年にまたがらせたりして設定されています。教科学習の知識や技能が必要な内容については、学習後に位置するように配慮し、「思考力」の転移・活用の場としています。さらに、図にかいて考えたり、表に表して考えたりすべき問題については、あえてその指示は設けないことで、既習事項を場に応じて活用する力も期待しています。解答シートには、考え方を想起させるきっかけとなる助言を明記しています。

(以下略)
 学力向上に取り組む学校

  
「IT機器を活用した基礎学力の育成」  宮崎県三股町立勝岡小学校

 宮崎県三股町は、宮崎県の南部に位置し、江戸時代には薩摩藩に属していたことからも分かるように、鹿児島県にほど近い町です。豊かな田園工業都市である三股町は、若い世代の転入も多く、町としての独立性を維持しつつ発展しています。そんな三股町の勝岡小学校では、IT機器を活用した基礎学力の育成を目指した取り組みが進められています。

■豊かな自然に囲まれた勝岡小学校
 勝岡小学校の南側には、のどかな田園風景が開けています。自然環境が豊かで、運動場の北側には、学校自慢の「みどりが丘」と呼ばれる大きな丘があります。赤松、杉、クヌギ、樫の木、ユズリハ、ツツジ、もみじ等の多くの種類の木や、カブトムシを育てるための小屋、緑陰教室用のベンチやテーブルがあります。勝岡小学校に通う児童は、この「みどりが丘」がとても好きで、昼休み時間にはおにごっこをしたり、探検遊びの場になったりしています。
 また、「みどりが丘」は、総合的な学習の時間での調べ学習や、生活科や理科学習の観察など、環境教育を中心とした学習の場としても積極的に活用されています。
 さらに、この「みどりが丘」を元にして「ハグリエンジェル」という環境教育のシンボルが作られました。「みどりが丘」にある「葉」と「ドングリ」をイメージしたもので、校内の掲示物などに登場し、皆に親しまれています。

■Eスクエア・エボリューションへの参加
 勝岡小学校では、IT機器を活用して基礎学力の向上の研究を進めるため、平成17年度には、財団法人コンピュータ教育開発センターが推進する「Eスクエア・エボリューション学校企画」に参加しました。
 ここでは「電子情報ボードを使って『できる』『わかる』授業」を企画のテーマにしました。「伝え合う力の育成」や「図形領域の指導の充実」を成果目標として、電子情報ボードを日常的に活用して、基礎学力の育成に取り組みました。

●実践の概要
(1)対象 小学校第5学年 国語科・算数科
(2)実践の概要
●国語科の学習を中心に伝え合う力を高める
○TV会議を使って他校との交流を行い、
 話す力・聞く力を高める。
 3〜4名ずつの班で、国語の時間の20分程度を使って、テーマに沿ったスピーチを離れた学校の友達と相互に発表し合い、質問や感想を交流するという活動を、週2〜3時間程度継続して行いました。話を聞く際には、話題や話し手のいちばん伝えたかったことなどをメモする活動にも取り組みました。
○学級日誌の「今日のできごと」の発表で
 書く力と話す力を高める
 2名ずつの当番制で、「Web学級日誌」(バディ・コミュニケーション製)というパソコンソフトを使って、毎日、日誌をつける活動です。その中の「今日のできごと」という写真と文章の欄の内容について、帰りの会で紹介しました。当番が一巡するごとに、日誌の文章がよいと思うものを投票しあい、チャンピオンを決めるようにして、取り組みの意欲を高めるための工夫がされました。
●算数科の学習における「量と測定」「図形」の 指導の充実を図る
○「三角形の面積」「円周と円の面積」単元で
 教科書指導書付属のソフトを使って、指導
 の充実を図る
 「わくわく算数」(啓林館版算数教科書)の教師用指導書に付属する「デンカケ」というソフトを活用しました。このソフトは、教科書の問題やその解き方、まとめなどをそのままデジタルコンテンツとして提示できるように作られています。「量と測定」「図形」領域では、児童の視覚に訴えることで、指導の効果が上がりやすいと考え、重点的に電子情報ボードが活用されました。
(3)成果と課題
●伝え合う力を高める
 実践後に話す力・聞く力に関する児童の自己評価を行ったところ「3:よくできている、2:まあまあできている、1:まだできていない」という3段階評価で、話す力、聞く力とも平均が2.2でした。指導者側の観察でも、声の大きさや話す速さなどの力の伸びが認められたとのことです。書く力に関しては、日誌のできごとの文章の文字数の平均が、実践開始当初の7月が61文字だったのに対し、12月には101文字になり、単に文字数が増えただけではなく、様子や気持ちなどを詳しく書けるようになってくるという成果が認められました。
●「量と測定」「図形」の指導の充実を図る
 算数の授業に関するアンケートで、児童は電子情報ボードを使った方が分かると感じているという結果が出ました(0〜4の5段階評価で、「先生の話が分かったか」で、電子情報ボードを使う授業が3.2、電子情報ボードを使わない授業が2.9)。また、11月に実施した単元テスト(日本標準刊)の結果は、82点の全国平均点に対し、94点という高いクラス平均点が得られました。
(以下略)
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