新年度直前 緊急企画
学力セミナー
 日本標準教育研究所は、2008年3月28日、愛知県名古屋市の名古屋市港文化小劇場において、「基礎・基本の反復で学力向上!」と題する学力セミナーを開催いたしました。「基礎・基本の反復によって確かな学力を育んでいこう」という趣旨のもと開催したセミナーです。ここでは当日の講演・実践報告の中から、岐阜県瑞穂市本田小学校の「本田(ほんでん)『はんぷく』プロジェクト」について、その内容をダイジェストで掲載いたします。 ※渡邊先生の勤務校はセミナー開催時のものです。







●「本田(ほんでん)『はんぷく』プロジェクト」について
 本田小学校は、各学年3学級の標準的な規模の学校です。普通の学校での「反復学習」の実践を紹介し、皆さんの参考になればと思います。大きな看板を掲げないで、いかに成果をあげるか、という課題です。この取り組みを、私たちは、「本田(ほんでん)『はんぷく』プロジェクト」と名づけました。
 このプロジェクトは、平成16年に広島県尾道市土堂小学校への研修旅行からスタートしました。校長、教務、担任を含めた総勢4名の研修視察旅行でした。研究会当日はもちろん、行き帰りの新幹線の車中も含めて、どのようにこのプロジェクトを進めていくかで、大いに盛り上がりました。しかしながら、学校に戻ると、忙しい日々の現実の中で、土堂小学校に行ったことすら、遠い昔の夢物語のようになってしまいました。
 本田小学校には、30年にわたって、道徳についての研究を続けた歴史があります。毎年、自主研究発表会を行っています。平成19年度も道徳実践優秀校の表彰をいただいたり、新聞の地方面に掲載されたりと、輝かしい歴史を刻んできています。歴史があるゆえに、プレッシャーと研究授業で多忙感が多い中、新しいことに取り組むことに対する職員の躊躇する気持ちも十分理解できる状況でした。「はんぷく」プロジェクトはあくまでサブの課題であり、メインはあくまで道徳である、というのが本田小学校なのです。
 しかしながら、漢字を覚えるとか、計算に習熟するといったことは、学校としてすべき最低限の教育活動であり、当たり前のことです。したがって、「はんぷく」は当たり前のことで、そのことを特別扱いして拒否する理由はない、と考えました。
 「はんぷく」の最大の特色は、脳を活性化させるということです。その効果については、指導者はもちろん、取り組んでいる子どもたちも実感できます。効果を実感しながら、脳を活性化させる取り組みを日々積み重ねていけば、学力向上に結びついていくのです。短期的にも長期的にもその効果は期待できます。そうであるならば、じわりじわりと浸透しながら、「はんぷく」がメインになる日もくるのではないかと考えもしました。本プロジェクトは、あくまで校内ではサブの課題として、しかも週3回・朝10分ずつの取り組みです。そんなプロジェクトが、どのような成果をあげたかを紹介します。


●組織作り
 最初に、組織づくりに取り組みました。学校全体で行うには、これは不可欠の要素です。一人でやっていては、一人の実践で終わってしまいます。学年全体、学校全体で行うことが、成果を実感するための絶対条件だと思います。つまり、「はんぷく」の組織づくりが不可欠です。その組織の形はいろいろあるでしょう。
 それまで本田小学校では、研修・研究の中心組織として「主題研究推進委員会」があり、各学年から代表者一名が参加して、研究主任が中心となって、道徳の研究授業の計画、研究会のまとめ、さらには、総合的な学習の時間、聞く、話す、書く、読みなどの学習指導などについても担当していました。そこで、この仕事内容を分離して「はんぷく」にかかわる研究を推進していく委員会を提案しました。研究授業は、主題研究推進委員会、総合的な学習の時間は総合研究推進委員会、そして、学業指導および「はんぷく」にかかわる指導は、学力研究推進委員会としたのです。
 当初の学力研究推進委員会の目的や協議内容は、今となっては、明確ではなかったようにも思います。ただ、土堂小学校に研修に行った3名が参加し、それぞれが、何をすべきかを自分なりにもっていたように思います。また、各学年の代表者6人のうち、5人が学年主任であったことも、結果的にはよい結果につながりました。学力研究推進委員会のメンバーである学年主任が自ら実践し、学年全体に広めていくのです。「PDC-H」、つまり、学力研推でPLANNING、自らの学級の実践DO、学年会で確認CHECK、そして、最後に学年にHIROMERU。このサイクルがうまく機能していたと思います。


●モジュールタイムの提案から実現まで
 表1を見てください。最初は、土堂小学校での実践と同様、音読、計算、そろばん、書き方など15分のモジュールを3つ組み合わせて、週3回実施する提案をしました。しかし、これは却下されました。いろいろな意見がありましたが、性急すぎるということです。まず、15分からスタートして、効果を実感してから、つぎの段階に進めていこうということです。モジュール自体が否定されたわけではありません。
 そこで、つぎに15分間の朝の帯時間を提案しました。最終的には10分間になりました。給食の時間を少しでも早くして、食中毒を予防するという観点が、時間割の決定に大きく影響しました。当初のモジュールタイムの提案からすると大きな後退でしたが、たとえ10分間でも、脳を活性化させるために内容を充実させてスタートしようと確認しました。この朝の帯時間は、「チャレンジタイム」と命名されました。
 一週間の内容は、表2のようになりました。木曜日の読書や金曜日の英語は、これまでの本田小学校の活動の流れから残すことにしました。


●指導内容
 指導内容は、土堂小学校で学んだことや「はんぷく」にかかわる書籍などを参考にしながら決めました。自作したものもたくさんあります。この教材収集の過程は大切です。各学年、各学級で実施したものを共有するための教材ファイルを作り、年間指導計画を立案しました。表3は、4年生の年間指導計画の例です。指導の内容は、大きく3つにわけました。月曜日は「音読」、火曜日は「計算」、水曜日はそれ以外のものを自由に組み合わせて行うようにしました。ここに書いてあるもののほかにも、地図記号、瑞穂市の地名、短作文、山地山脈名、川、平野、工業地帯、歴史人物、歴史年号、世界の国名なども題材としました。
 計算では、各種ます計算のプリントを作成したり、パソコンで問題配列が自在に変わるプログラムを作ったりして活用しました。
 音読は、繰り返し声に出すことで、脳を活性化することを目的としました。初めは覚えやすいものやリズムがよいものが適しています。代表的な教材は、付け足し言葉です。
 歴史の人物や年号も音読します。音読している中で自然に覚えてしまいます。覚えることを目的にすると楽しくなくなってしまいます。
 漢字の指導については、学校として共通の目標を設定しようということになり、漢字のテストで全員合格点(80点)をとる、と設定しました。全員が確実に合格できるようにする方法があります。それは、「できるようになるまでやる」ということです。テストの結果はやればやるほどよくなります。前にやった漢字を覚えているからテストにならないと言いますが、「覚えている」のですから、意味はあります。
 そのほか、さまざまなオリジナル教材を作成してきました。




●取り組みの成果
 脳を活性化させることを目的として、学力研究推進委員会や学年会の組織作りを進め、日々、「はんぷく」を積み重ねてきました。それは、あくまで朝の10分間という限られた時間の中での実践です。この取り組みをとおして、4つの視点で成果を見つめ直してみました。
 まず、脳は活性化されたか(集中力はついたか)。これは、「はんぷく」の時間の子どもの様子をみればわかりります。確実に脳は活性化され、集中力がつきました。
 問題はそのつぎです。その積み重ねは授業にどう生きているか。そして、それが日々の生活にどう生きているか。最終的に、どう学力向上につながったか。これらのことを、教師が実感したことと、具体的なデータをもとにまとめてみます。
 教師がいちばん初めに感じたのは、「聞く姿」がよくなってきたということでした。研究授業や全校集会、授業、朝の会、帰りの会などの子どもの様子から、「聞く姿」がよくなってきたということが確認できるようになりました。5年生の宿泊学習では、宿泊所の職員の方から「説明が一回で済む。一回の説明で、作業ができる」とほめられました。授業参観で、聞く姿がどうであったかと保護者にも聞いてみました。良かったと答えた保護者の方が68%、まあまあが27%、いいえという方が2%でした。 
 実感できたことの二つ目は、すべての子のがんばりがあったということです。国や県による学力状況のテストがありましたが、かなり満足できる結果が出ています。できる子は、以前からあたりまえにできるけれども、これまで飲み込みが遅かった子が、すごくがんばっているのです。宿題もきちんとやってくるし、授業中もちゃんと話を聞いている、わからないことは残ってでも先生に聞こうとする、そういう子が増えてきたのです。
 取り組みを始めた一年後、前の学年の読み取りと書き取りの定着状況を調査しました。問題数は5問です。読み取りはほぼ100%近い正答率、書き取りの方も4問以上の正答者は、80%近くになりました(グラフ1参照)。
 標準的な学力テストの問題を使って4教科の学力状況を調べました。5年生の正解率の分布を見ますと、国語・社会・算数・理科のどれを見ても、漢字テストと同じような形をしています。80点以上の子がたくさんいます(グラフ2参照)。
 教師として実感したことの三つ目は、非常に速くなったということです。当たり前といえば当たり前ですが「はんぷく」に取り組むと、いろいろなことが速くできるようになります。漢字の50問テストは、最初は時間がかかっていましたが、今では15分でできるようになりました。以前は30分程度かかっていましたが、15分でできてしまうと、またもうひとつ何かができるということになります。応援練習の時間も短縮できるようになりましたし、卒業式などの行事の練習の時間も短縮できるようになりました。集会の発表、委員会の発表も一回か二回のリハーサルでできるようになりました。
 最後になりますが、教師の実感したことの四つ目としては、この取り組みが原体験として生きるということです。「はんぷく」で培われるものの中で、良くなった自分を見つめる、そして、だめだった自分を見つめる、そして将来に向けての自分を見つけるという中で、クラスの仲間として認められるという自己肯定感が育ってきます。こうしたことが、いろいろなところに生きているのではないかということを、ある先生が言われました。それは、班ノートというグループで交換するノートに書かれていたことの変化の中で感じ取られた感想でした。他の子と比べるのではなく、前の自分と比べてよくなっていく体験をし、その子の成長を周りの子も認めていく中で、自己肯定感が生まれ、これらの体験と自己肯定感が生活のいろいろな場面で生きてくるのです。「はんぷく」が、生徒指導と学級経営に生きてくると言えるのではないかと考えています。
 このように、サブの存在でありながら、脳を活性化することを意識しながら、当たり前の取り組みをとおして、大きな成果が確認できました。
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