教育フォーラム
 2006年8月3日、東京都千代田区の有楽町朝日ホールで、教育フォーラム2006「今こそ“人間の命”を考えよう」が開催されました。この教育フォーラムは昨年第1回目を開催し、今年は第2回目を迎えました。愛知県岡崎市・浄土宗西居院の住職、廣中邦充さんの「子どもは悪くない! そこを出発点に! 」、続いて京都ノートルダム女子大学教授、藤川洋子さんの「少年少女たちが抱える問題と特別支援教育」という演題での講演。そして「社会的存在としての“人間の命”をこう『教える』」と題しての、小・中学校の現場で実践されている先生方のパネルディスカッションという構成で進行しました。

 今回の教育フォーラムは、次のような呼びかけをしました。「少年少女たちは誰もが、自分ひとりでは解決できない問題を抱えています。彼らの真の姿を探り、見つめ、受け止め、手を差し伸べて、成長へと導くのは大人の責任です。それは、彼らの命を救い、生き方を助けることに繋がります。少年少女たちの実態に目を向けながら、親、教師、大人が考えなければならないことを探ります。」
 昨年同様、北は北海道から南は沖縄まで、教育フォーラムのテーマと呼びかけに賛同していただいた大勢の方々に参加していただきました。現在、様々な問題を抱えている子どもたちに対して、パネルディスカッションのテーマでもあります、「社会的存在としての“人間の命”」の視点で、私たち大人が今考えなければならないことは何か、廣中さん、藤川さんお二人の講演と現場の先生方を中心にしたパネルディスカッションから、参加者それぞれの方が何かを得ていただいたものと思います。

 講演者お二人のサイン会も盛況で、フォーラムが終了してからも講演者、パネラーを囲んでの談話が続いていました。
 講演、パネルディスカッションの内容を以下でご紹介いたします。当日の熱気と感動の一端を、ぜひ感じていただきたいと思います。

「子どもは悪くない! そこを出発点に! 」― 廣中邦充さん
 午前の講演は、愛知県岡崎市・浄土宗西居院の住職、廣中邦充さんです。テレビ局のニュース番組やドキュメンタリー番組でも紹介されていますが、廣中さんは約10年間にわたって問題や悩みを抱える子どもたち400名以上を寺に引き取り、一緒に暮らしながら更生をさせてきました。まさに、寝食をともにしながらの活動を取材してまとめた、「やんちゃ和尚―399人の不良少年少女を更生させた熱血坊主―」(竹書房)も出版されています。
 廣中さんは、壇上に登場するとすぐに会場の参加者を一斉に立ち上がらせ、深呼吸と隣り合わせた参加者同士での肩もみへと誘導し、参加者の緊張感をほぐして話を進めていきました。
 まず、子どもたちを寺に預かっての活動が11年になり、469名もの子どもたちが巣立っていったこと、現在15名の子どもを預かっていて、「お寺に入りたい」と言って待っている子どもが979名もいることを紹介しました。「私のお寺では、食費も預かり賃も1円もいただいておりません」「看護師の奥さんの給料と、僕のギャラで食べさせておるだけです」「何か問題があれば、僕はいつでも本堂を売ろうと思っております。お寺の本堂を売って。その自信なんですよ」と、体を張って活動をしている気迫が伝わってきました。
 そしてずばり、「子どもたちの問題は、すべて親の責任! 子どもたちのいろんなシグナルに気づいてやれてない!」と一喝し、それを裏付ける例を紹介されました。
 一緒に行くことをしぶる親を連れて少年院へ面会に行ったときのこと。面会した少年の第一声は、「親父、お前があのときに俺をきちんとした形で導いてくれなかったから、だから、俺はここの少年院に入っておるんだ」と。いろいろな状況はあるが、これは「なぜあのときに、俺が落ちぶれていったときに、いろんなシグナルを出していたときに、親父が俺になぜ教えてくれなかったんだ。だから、俺は今、ここの少年院に入っとるんだ。親父、どうしてくれるんだ」ということを言っているんですと説明され、「みんな子どもが悪い。子どもたちが悪い」と言っているうちは直らないと思うと熱く語りました。
 預かった子で、自殺をしてしまった子どもの例も語られました。つらい体験を話しながら、「『心の時代』と言っているときに、子どもたちは叫び声を上げているんですよ。そして、誰にも言えずに、『苦しいよ』と、みんな自分の胸の中にしまっている。悲しい出来事もありましたが、次の犠牲者をださないように頑張ると亡くなった子に誓っている。一人でも、子どもたちを救ってやりたい」と思いを語りました。そして、「今こそ“人間の命”」を考えるときではないか、と問いかけました。
 夫婦の心が一つになっているかと続け、子どものシグナルに親が気がつくことができるかどうかを語りました。不登校の子どもを調べていくと、環境の変化や夫婦間のトラブル、じいちゃんばあちゃんとのトラブルだとかが必ず出てくる。そこの原点をいかに掴み取るかが重要と話されました。さらに、「心の栄養が不足している子どもたちに、心の栄養をいかに補給してやるか。永遠のいろんなものを持っている子どもたちを命がけで守れということなんです」と話されました。
 この世の中に人として生まれたことは稀なことと説きながら、大人たちが持っていくべきものとして、@喜びの心を持たせていただく、A人様のお役に立つ、B人様の幸せを願う、の3つをあげて話は締めくくりになりました。
 はじめから最後まで、壇上と会場を所狭しと歩き回りながら、ときに参加者に声をかけ語りながらの講演でした。最後にまた参加者が立ち上がり、「命の大切さ、それを自分たちも一生懸命、喜びの心で広げていくぞ、オーッ!」と、気合の入った掛け声で会場は熱気にあふれました。

「少年少女たちが抱える問題と特別支援教育」― 藤川洋子さん

 午後の講演は、京都ノートルダム女子大学教授の藤川洋子さんです。藤川さんは30年以上にわたり、家庭裁判所の調査官として非行少年、非行少女とかかわってこられました。
 長年の経験の中で、精神障害や発達障害を持つ子どもたちの事例を扱ったことから、これから子どもたちの問題を考えていくときに、こうした子どもたちの事例から、どんなことを考えていく必要があるのかをお話していただきました。
 お話のキーワードは「対人関係力」。非行を長年見てきて、従来私たちが持っていた「ワル」のイメージではない子どもたちによる犯罪・非行が目立つようになっていると話され、「自分はワルだというようにアイデンティティを持つ人数というのは、明らかに減少している」「何がいいことで、何が悪いことでということが分かりにくいという特徴を持った人、不器用系、あるいはちょっとストレートで、折れない。そういう方の犯罪とか非行がめだってしまうという形になっているように思う」と特徴を説明され、これが話のテーマであり、発達障害がこれにリンクしていくと説明され、スライドと合わせながらお話を進められました。
 少年事件に関しては、「その子をどう更生させるかが重要」な問題で、少年法の理念はそこにあると言われ、続けて、普通に期待される対人関係の発達の道筋について、サリバンというアメリカの精神科医の研究内容で説明されました。これに対して、虐待に潜んでいる問題として、「乳児期の虐待の原因は、子どもの生まれつきの発達障害が原因になっていることが少なくないという、児童精神科医による学会などでの発表もある」と指摘され、「50%ぐらいが、育てにくい生来的な特性を持っている」と話されました。
 また、6〜8歳にかけての児童期は、両親間の問題が子どもに反映してしまうという事例が加わり、児童期中期、小学3〜5年の頃以降に虐待やいじめを受け、孤立してしまうと発達障害の有無に関係なく、反社会的行動にでたり、非社会的行動をとるという研究者のお話も紹介されました。
 発達障害の診断や個別の関わりが重要だということの一つの事例として、ADHD、多動性障害と診断された13歳の少年が、弟を包丁で刺して重傷を負わせた例を紹介されました。それまで情緒・行動面で落ち着きのなかった少年が、個別の養護学級に中学1年から入ると落ち着いていく。それは、小さな集団の中で、ADHD特有の記憶力の良さから物知り博士的な存在となったことや、先生も非常に適切にかかわっていただいたこと、また、薬をきちんと飲んだことが主な要因だった。しかし、中学2年のある日、弟と口げんかした際に、「身障のくせに」と言われたことが原因で弟を刺してしまったという内容でした。
 いくつかの事例から、発達障害は1番目に、生物・医学的な気質が主要因というのを押さえておく必要がある。2番目に心理的要因。心の傷になるような経験。3番目は、社会的、あるいは文化的な要因。学校、家族の関係。家族が地域からどんなふうに見られていたか。この3段階の要因から考える必要があると強調されました。
 周囲の無理解や服薬がきちんとできないことでの行動のコントロールができない、という事例を多数見てきて、先生の協力、本人の理解、親、お医者さんのチームを組まないとうまくいかないということを経験したとも話され、発達障害の子どもたちを正確に理解することで子どもへの適切な対応というのが可能になると思うと強調されました。
 最後に、社会全体が彼らのことを理解して、彼らを宝だと思って応援していくという態勢づくりが大切で、「小学校の中学年、高学年の大事な時期を担う先生や親の方たちに、本当にきちんと理解をして、頑張っていただきたいと思う」と締めくくられました。

パネルディスカッション「社会的存在としての“人間の命”をこう『教える』」

 パネルディスカッションは、深澤久先生にコーディネーターをお願いし、三人の先生方にパネリストとして発言をお願いしました。
 深澤先生はまず、「昨年は人間の命そのものをテーマにした。今回は角度を変えて、社会の中で人の中に生きている命という視点で、子どもたちに人間として自分の大切な命を輝かせ、豊かに生きていくために、“人間の命”をこう『教える』という実践を報告してほしい」と述べられました。そして、パネリストの先生方から、自己紹介を含めて報告・問題提起がされました。

●子どもたちの輝く瞳のために
 山形県の小学校教諭佐藤幸司さん。現在2年生を担任されています。スクリーンを使って実践報告をされました。
「友だちパワーで元気になったのは、どんな言葉か」という子どもたちへのアンケート調査の結果では、圧倒的に多かったのは「ありがとう」の言葉。「子どもたちは、人の役に立ちたいと思っている。本当はそういう気持ちを持っている。私たちは、そういうことを分かって指導してきたか」と問いかけました。そして、「自尊感をもてない子は、どうせ自分なんかと思ってしまっている。そのために『ありがとう』が必要。この言葉で誇りを持って生活できる」。
 さらに「命」にかかわる授業実践例を紹介し、「子どもの表情がみんな満足して輝いていた」、子どもたちの輝く瞳のための授業実践をしていきたいとお話をまとめられました。

●よりよく生きるためのルールを
 福島県の小学校教諭櫻井宏尚さん。今年から、4年生のクラスを担任しています。「安心して学習できる、学校生活を送れる学級を作りたい、それがないと命は考えられない」と、そこからスタートしたと話されました。また、「学年の一員としての共同体意識をもった、ルールを守る子どもに」と考え、1学期から、命を大切にするということを軸にした資料を使って実践していると報告されました。「ルールは何のためにあるのか。ルールは絶対かどうか、ということを考えさせたかった」と言われ、「当たり前のことを当たり前にできるようになろうと、子どもたちと毎日確認している」と続き、最後に、「安心して生活できれば、よりよく生きていくことを考えられる。いい環境でこそやりたいことができる。だからそういう環境にしたい」と述べられてしめくくられました。

●生き方のモデルを示す
 最後は、中学校教諭の夏目研一さんです。自己紹介後、舞台で腕立て伏せ100回。会場が沸きました。「今の学校、教育制度を批判的に雑誌に書いていたとき、私自身がだめなのではないかと思い、裏山を走り、腕立て伏せ100回、スクワット100回など、自分を鍛えなおそうと志をたてた」と語られました。
 さらに、「子どもたちは、生き方のモデルを探している」と考え、授業に使えるようにと、ある出版社から、多様な分野の人を選んで出版した伝記の本に話が続きました。
 「早寝早起き朝ごはんを学校の目標にして、生活の立て直しをしようと学校ぐるみでやっている」「授業の中で、伝記の本の読み聞かせをしたら、すさんだ学校が変わってきた」と話され、「どんなに苦しいことでも目標があれば横道にそれない。生き方のモデルを示す。否定的なものではなくて、肯定的なものを示すことが大事」と力強く話されました。

 会場からの意見・質問、講演者の廣中さん、藤川さん、パネリストの先生方からの一言ずつのコメントと続き、最後に深澤先生の「1年に1度ぐらい、じっくり人間の命について考えてみるのもいいのでは。大人は大人らしく、何ができるのか。大人として人間の命にどうかかわれるのかが一番大事では」という結びの発言で、パネルディスカッションは終了しました。
 今回のフォーラムで講演をしていただいた廣中さん、藤川さんの講演内容をもとにした著書を、来年出版する予定です。 
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